Privacy Insights 2026.09.24

個人用AIはいつまで無料で使えるのか

インターネットの無料サービスは個人情報が通貨の代わりだった。AIサービスの膨大なコストも個人情報で賄うことができるのか。

PRIVACY INSIGHT

Privacy Insight: 個人用AIはいつまで無料で使えるのか

フリーミアムモデルのほころびとサブスクリプション

インターネットのサービスが無料なのは、今を生きる私たちにとって常識になっている。Googleはインターネット上の情報を整理し、メールも地図もカレンダーも無料で提供している。そのGoogleの無料サービスを支えているのは、利用者がクリックした広告を通じて商品やサービスの代金を支払っているからだ。

広告を通じて多くの人がインターネットの運営の対価を支払っている。広告がインターネットの無料サービスを支えている。その広告を支えているのは、広告効果を高めるための個人情報である。商品やサービスに関心のある人を見つけ出し、購入するまで広告が追いかけてくる。Googleは当初、広告の導入をためらったが、導入して以降、現在にいたるまで主要な収益源であり、これに代わるものはいまだにない。

民間企業には、成長し収益を増大させる使命があり、そのためには広告主から得る広告費を拡大させるしかない。広告主には売り上げがなければ出稿できないため、広告効果を高める必要がある。広告効果を高めるためにオンライン上の行動情報が利用されることに対して、ユーザーがプライバシー侵害を訴えるようになった。GDPRによって、プライバシー関連の巨額の賠償請求を伴う訴訟に発展したことで、広告のためのプライバシーデータの収集や利用が見直されるようになった。

広告によって無料で提供されているサービスから広告を排除する対価として、料金を支払うサブスクリプションが主流になっている。ユーザー獲得のためには無料の入口が最も効果的であるため、回数や機能の制限を設け、快適に利用したいユーザーを有料化へ誘導している。

フリーミアムモデルのほころびとサブスクリプション

LLMのAIはSaasのようにコスト回収ができない

インターネット無料サービスは、最初にユーザーを獲得すればネットワーク効果でシェアを維持できるため、現在も使われている。SaaSはプログラムであるため、プログラムのイニシャルコストは、一定数のユーザーを獲得すれば、運用コストをそれほどかけずに回収でき、それ以降のユーザーは利益となる。いっぽう、LLMのAIは、それができない。AIは、事前学習に高価な半導体を用いたデータセンターの建設費、光熱費、水道代などかかるため、フロンティアモデルでれば数千億ドルのイニシャルコストがかかる。ユーザーが利用する際にも、推論のために高度なデータセンターの光熱費、水道代などかかる。SaaSは決められた答えを低電力で出力するが、AIは推論でデータセンターを利用するため、光熱費や水道代がかかる。Googleの通常検索は数セントだが、AIの推論では60倍のコストがかかるという。

OpenAIは2025年には7割以上のシェアがあったが、2026年には5割になっている。ユーザーは、他ブランドへの乗り換えが容易である。そのため、AIの開発の手を緩めるわけにはいかない。

AI開発競争の根本原理

AIの開発は、スケーリング則の発見によって、データ量と計算能力の掛け合わせになっている。AIの開発競争とは、データセンターを設立し、半導体を購入し、電力と水を確保して、データを確保することを意味する。NVIDIAの高度な半導体も、フル稼働のデータセンターでは36〜18ヶ月しかもたないという。AI開発競争では、開発するほど赤字が積み上がっている。OpenAIのAIの利用者は10億人を超えたが、有料会員は5%程度であり、「1ドル稼ぐのに3ドルかかる」と言われている。その資金は投資家が賄っており、投資家がリターンを求める未来が待っている。

AIが優れるほど計算資源がかかる

フロンティアモデルが多くの計算資源を利用するようになったのと同時に、AIエージェントが独自の判断で試行錯誤する際にも計算資源を消費する。また、AIエージェントはほかのAIに指示できるため、それぞれのAIも計算資源を消費するようになった。

AIのコスト問題

AIの定額料金制でAIエージェントを利用すると、計算資源の負担がAI事業者に重くのしかかるため、AIエージェントを従量制にしたり、高度な推論を行うモデルは高い単価に、推論能力の低いモデルは低単価にしたりしている。個人のユーザーであれば、無料枠内で満足できなければ有料プランを選択することになる。企業がAIを業務に採用する場合には、定額プランのトークン上限に達すると、追加コストを認めざるお得ない。200ドル程度のプランでも、追加の従量課金によって2000ドルになる場合があるという。Uberでは、AIを推進したが、AIの年間予算を3ヶ月で使い切ってしまった。MicrosoftもAIコストの観点から、社員が利用していたClaudeから自社AIに変更した。

AIの開発によって業務をAIに置き換えることができた場合でも、その業務の達成に必要な計算資源によっては、AIコストが高くつく。業務効率化が労働時間の短縮による人件費の削減を意味する場合など、業務でのAIエージェントやAIオーケストレーションなど、の計算資源のかかる利用ではAIコストの問題が顕在化する可能性がある。

AI事業者の個人向けAIのねらい

AIの開発には、膨大なイニシャルコストと、それに劣らないランニングコストがかかる。AI事業者各社が個人向けAIを開発する動機は何なのか。

AIは開発と運用にコストがかかる存在であっても、他社のAIに市場を破壊される可能性があるため、生存をかけた競争が繰り広げられている。Googleの検索市場でも、人々が検索をやめてAIの回答に満足すると、ウェブサイトが検索されなくなる可能性がある。現在はその傾向が出始めている。AIが社会を変える可能性があるため、そのAIを握ることは、地位を奪われないために必要である。Googleは無料サービスの対価として、個人情報を大量に預かっている。広告のために興味関心情報が利用されているが、予約や購入をAIエージェントで行うことができれば、広告の枠を超えたビジネス機会が生まれてくる。現在もGoogleフォトやYoutubeで無数の画像を扱っており、個人用AIからAI学習利用ができれば、映像から物理現象を理解する世界モデルの学習データに使えるようだ。

主要AIの個人向けサービス

OpenAIは、ChatGPTを相談相手として利用するユーザーから、通常は企業が手に入れることのできない類いの情報を扱っている。悩みの解決は購買行動の誘因となる。AIへの相談が広告に利用されることによるプライバシー上の課題が予想されるが、興味関心情報以上に広告効果がある可能性がある。ANTHROPICは、米国のスーパーボウルで、AIが広告がふくまれた回答の気持ち悪さを知らせるCMを流した。個人向け無料サービスの対価として広告の認識しているため、受け入れられる可能性もある。投資運用や買い物の助言を行うAIをユーザーが求める場合には、AI利用における信頼が高いChatGPTのスーパーアプリのほうが、他社サービスよりも信頼される可能性もある。

個人向けAIの裏側

AIコストの負担は人類

個人用AIと法人用AIの違いは、AI学習とデータセキュリティの有無だけだ。AI開発では利用者のデータを参考にする価値もあるため、個人用AIでは利用者の入力データや生成結果がAI学習に利用されている。法人用AIでは、セキュリティが確保されなければ申し込まれないからである。AIサービスはコストがかかるため、本来ならば無料の個人利用者全員からコストを回収するのが望ましいが、完全有料にすると個人の95%にあたる市場を失う。イニシャルコストに数千億ドルかかる時点で、小規模な開発モデルは選択できなかった。

OpenAIは、稼ぐ金額の数倍に当たるコストの負担を投資家に求めている。2030年まで黒字にならないという予測をしている。GoogleもAIのために巨額の社債を発行している。投資家が求めているのは、未来の利益である。AIの定額プランが従量課金に比べて割安になっているのは、投資家の援助を受けた価格ともいえる。AIに考えることを委ねると、自分では考えられない脳になるという。AI依存社会が実現したときに、これまで投じたコストの回収が始まるかもしれない。

市場の独占が禁止されているのは、独占されたあとで人々が手放せなくなったときに利益を取るからである。IT業界のマーケティングでも、初回を無料にし、依存するまではリーズナブルな価格にする戦略があるという。オンラインの無料サービスの対価は広告のための興味・関心の情報だったが、個人向けAIに利用する個人情報はプライバシーに関するものが多い。それらは、なんらかの経済行為につながる何かに変わるだろう。

インターネットの無料サービスは、利用者の誰かが広告を通じて支払うことで成り立つことから、利用者の個人情報が対価と言い換えられる。AIの無料サービスも、利用者が広告やその他の手数料などを通じてAI事業者に収益をもたらす場合には継続できる。GoogleのGeminiのエージェントが購入を代行する際のコミッションや、ChatGPT金融機能のあるアプリ経由した投資商品の購入が、広告のかわりの収益となるかもしれない。広告による無料モデルでは、興味嗜好がメインであったが、AIエージェントが利用者におすすめし、購入を代行する際には、利用者のあらゆる情報が対象となり学習に利用される。プライバシーデータのすべてが民間事業者に握られる未来だ。その際のプライバシー問題が懸念されるならば、プライバシーデータの利用を制限する代わりに、可能な高価なサブスクリプションが選択される。

生成AIの個人利用に潜む「究極」のプライバシーリスク
Privacy Insight ここまで

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