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なぜ今、経済安全保障が必要な時代に
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世界は紛争や戦争がなくなることはありませんでしたが、総じて世界経済は平和に見えていました。なぜ、いま世界で経済安全保障が必要な平和な時代が終わっているのか。欧米の経済安全保障、それに対する中国共産党による経済安全保障の対応策はどのようなものでしょうか。後半では、中国が脅威となる国家戦略の変化を知ると理解が深まると思います。
なぜ、いま世界で経済安全保障が必要な平和な時代が終わっているのでしょうか。経済安全保障は、各国政府が自国の国民を守るための安全な経済活動ができるように、危険な製品や技術を販売する事業者や技術の利用を制限するなどの法的なルールを設けることです。
世界の経済がつながり政府や民間企業が問題なく取引ができていれば、規制を作る必要はありません。インターネットで世界に市場が広がる間に各国が経済活動を通じた侵害を認識したのが最近であったということです。
世界経済の中心となってきたある国による通信機器から情報窃取や強制労働や民族迫害などの人権侵害、生物兵器開発疑惑やスパイ活動などの被害を認識の高まりが2019年以降のコロナパンデミックで国連加盟国の多くが知るところになりました。被害に早く気が付いた国は、そのタイミングで経済安全保障対策を講じているため明確な日付はわかりませんが、「なぜ、今なのか?」という問いには、「今、気がついたから」というしかありません。
気が付いた時には被害を受けていて、放置すると被害が深刻になります。世界各国が経済安全保障対策をすすめていますが、日本政府は危機について気が付いていないかのような対応の遅さがあります。他国で経済安全保障対策が強化されていて、日本が対応をしていない場合には、日本が「つけいる隙」になります。米国で経済安全保障の脅威に指定された事業者が日本で営業開始し、脅威は日本国民に及びます。
日本国民が他国の国民と同等に関心をもって、国安全を政府に要望しないと取り返しがつかなくなる懸念もあります。
米国の経済安全保障
米国は中国の事業体にさまざまな対策を講じています。ファーウエイは2018年では世界の5Gの技術の85%を占めており、スマートフォン事業も好調でしたが、米国の禁輸リストに加えられました。ファーウエイは業績に大打撃となり事業運営の危機にあります。禁輸リストはその取引がある企業も対象としているため日本企業にも影響があります。
米国に投資する外国企業の投資にリスクが無いかを審査しています。外国企業から米国企業の買収による技術や情報流出などを予防しています。米国企業からも中国の軍事産業関連事業者への投資を禁じています。
通信会社は利用者の個人情報を盗むことができるため安全保障上の脅威として、中国の通信会社の米国での事業免許を取り消しました。
中国の強制労働によって作られたウイグルの新疆綿やソーラパネルの輸入も制限しています。米国内の中国通信事業者の免許を取り消しました。中国への半導体技術の移転も制限しています。
アメリカ政府が人権侵害に関わった個人・組織を特定して、アメリカにあるその資産を凍結し、アメリカへの入国を禁止する権限の法があります。これにより中国共産党の高官が財産を米国に移し、米国の土地の購入や家族の永住などを防止する対策をしています。
バイデン政権は、国家安全保障の脅威として、この先10年は中国とロシアをあげています。米国は、民主党と共和党で思想が違いますが、中共の脅威には同じ価値観であるため共和党政権になっても継続することが予想されます。
米国の経済安全保障は、中国共産党の影響を受けた民主主義国も対象としています。日本も中国共産党の関わりがある場合には禁輸対象になります。これは、民主主義国で中国の脅威を排除した経済圏をつくることを意味します。日本の企業では、中国資本や委託先に中国の企業を利用することや中国製の製品を採用することがリスクとなります。
豪州や欧州の経済安全保障
豪州や欧州も中国共産党の影響を認識するにあたり経済安全保障の対策を講じています。
豪州では、国家安全保障の観点から、外資による取得・買収に関する審査をしています。
- 水・電気・港・ガス・防衛装備品
- 通信、データ保存・処理、金融、上下水道、エネルギー、ヘルスケア・医療、高度教育・研究、食品、輸送、宇宙技術などを対象としています。
欧州では、EU域外から投資について6分野を定めて審査を対象として審議をしており2023年1月に発効が予定されています。
- 重要インフラ(例:エネルギー、医療、メディア、防衛など)
- 安全保障に不可欠な技術や生産手段、戦略的に重要な技術(例:人工知能、ロボット工学、半導体、原子力技術など)
- 食料安全保障、エネルギー、原材料に関連した基本的物資の供給
- 個人情報を含む機密情報へのアクセスやその管理
- 民間のセキュリティ部門
- メディアの自由と多元性
欧州では、安全保障の観点で人からの技術流出対策でアクセス権や民間のセキュリティを対象としています。メディア支配によるプロパガンダが安全保障に含まれています。
欧州を離脱した英国も、国家安全保障を脅かす可能性がある、外国企業や投資家による英国企業に対する合併・買収などについて、17分野に政府が調査・介入できるようにしています。
先端素材、先進ロボット工学、人工知能、民生用原子力、通信、コンピュータハードウエア、政府への重要なサプライヤー、危機管理に関する重要なサプライヤー、暗号認証、データ・インフラストラクチャー、防衛、エネルギー、生物工学、軍民併用技術、量子技術、衛星・宇宙技術、輸送の分野
経済安全保障でカバーすべき分野は、経済活動のほぼ全ての領域が必要であることがわかります。中国共産党の脅威を深刻に受け止めているといえるでしょう。
世界の民主主義国は、上海を通じて中国との経済を広げました。上海が中国に返還され、一国二制度で50年間(2047年まで)社会主義にしない約束でした。中国が2014年から上海の資本主義を破壊し、共産主義の支配下として自由が制限する実力をみせつけられました。また、ウイグル自治区の民族の強制労働や強制不妊などのジェノサイドが世界に知れ渡りました。
取引相手が危険な国であることを世界が知ったのです。
中国の成長と国家戦略の転換
経済安全保障の脅威は、中国とロシアとなっていますが、20世紀は世界経済が一つとなった人類としては画期的な世紀でした。世界大戦後の人類の平等の平和を前提とした価値観とコンピューターやインターネット、スマートフォンのデータ社会が世界の経済をひとつにまとめあげました。冷戦後のグローバル経済、そしてまた新たな冷戦というサイクルで中国の成長が国家戦略の転換点が明らかになってきました。
「暴力の人類史」(スティーブン・ピンカー 著)では人類は絶えず戦争をしてきましたが現代は減ってきたことが明らかにしました。人類は多くの種を絶滅させ、ネアンデルタール人も滅ぼしました。人類の最大の脅威は人類です。100年前までの価値観であれば、世界の国を支配するのは主流の考えでした。
世界大戦よりも前は、他国に植民地支配をし、奴隷として労働を搾取してきました。奴隷に人権もプライバシーもありませんでした。
世界大戦後に他国の植民地支配や奴隷などの人権侵害をなくす平和な時代をつくりあげました。世界大戦中に開発されたコンピューターが経済規模を世界にすることを可能としました。コンピューターが個人情報を管理する時代を危惧し、OECD(世界協力開発機構)でプライバシー8原則が作られました。
世界大戦中に資金を提供していた米国のドルが金本位制をやめたあとも世界の基軸通貨として、世界の金融を支えるようになりました。通貨が世界で共通となることで、他国から収奪せずに貿易取引で利益を得る方法が広がりました。
冷戦時に開発されたインターネットが、冷戦終結後に世界を結ぶ取引を可能としました。米国の企業を中心にグローバルに展開する企業が現れました。米国は国内製造から中国に工場をつくり、中国の成長をドルで支えました。
冷戦では、民主主義と共産主義のイデオロギーの対立がありました。中国は共産主義ですが、民主主義の国家制度を採用してくれるだろうと米国は期待していました。現在、その判断が誤りであったことに気がつきました。
中国は、2003年アリババが米国からインターネット市場を学び、中国の市場を創出しました。アリババはユーザーの信頼を獲得し信用情報ビジネスまで発展させました。
中国は2012年の習近平政権は、スマートフォンの普及と監視カメラを組み合わせ、天網という国民の顔認証と健康情報や行動情報の国民監視システムをつくりあげました。インターネットも中国の管轄ではネット検閲など思想の管理もできるようになりました。情報化は監視社会にマッチしました。
世界の工場として大量のドルを保有し、GDP世界2位となりました。国内統治も経済も十分に力を蓄えるという国家戦略の転換点となりました。米国を追い抜いて世界の覇権をとる国家戦略への転換を習近平政権では進めることになります。
なぜ、いま、中国が世界の脅威に
なぜ、いま、中国が世界の脅威となったかについては、情報化による監視社会システムと経済力および軍事力がそろったのが、2012年から現在までの10年間だったのです。
中国では、国民を監視カメラで顔認識し、アプリで健康状態を管理し、民間の経済活動から信用を管理し、ネット行動から反乱分子を監視する監視社会が完成しています。「1984」(ジョージ・オーウェル著)の小説のディストピアの社会を超える社会となっています。ウイグル自治区、チベット自治区は、もともとは他国で中国政府が、経済基盤を提供した相互関係で始まりましたが、人権問題に発展しています。
「ハイテク専制」国家・中国 内側からの警告(王 力雄 著, 王 柯 著)では、最近になって中国共産党が世界の脅威となったかを教えてくれました。中国は、発展途上の時代に無能なふりをして準備を重ね、経済の力を得た時に意表をつくという「韜光養晦(とうこうようかい)」の国家戦略を持っていました。韜光術を捨て米国と覇権を争うフェーズが現政権なのです。
中共の人類運命共同体という覇権
共産主義は民主主義の国を共産主義に変えることが根本にあります。中国共産党は、全世界の200の国々と数十億人が共に繁栄する「人類運命共同体」を構築して中国共産党の総書記が領袖(指導者)となることを目標に掲げています。そして、20回中国共産党大会で習近平総書記が再選し、覇権の速度が増したといわれています。
9千万人の中国共産党のトップが14億人を管理が可能とする統治のための監視社会のシステムがあります。このシステムを利用すれば、地理的な隔たりがある国を支配できます。世界大戦前の欧州による世界の植民地支配に近い形で共産主義支配の脅威があるのです。
私たち一般人は、国家戦略のスケールをイメージすることは難しいと思います。私たちがイメージしやすいものに例えると反社会勢力です。反社会勢力との取引は法律で制限されています。それは、反社会勢力と関わると会社が乗っ取られたり、犯罪の被害につながるからです。覇権は反社会勢力の抗争と同じようなものです。
評論家の石平氏は、中共は反社会勢力が国を運営しているようなものだと解説しています。反社会勢力と関わりを持つことは危険なので、取引を禁止しています。中共は9000万人の組織を持ち、14億人を管理しているため、反社会勢力としても我われの想像をはるか超えた狡猾さや技術をもっています。
覇権による世界支配など日本人では想像もしないことを国家戦略としているため、中共の情報収集をしていない人にはにわかに信じがたい内容となっています。
私たちが使うニュースサイトやYouTubeなどの情報ソースは、元から関心のある項目が表示されるフィルターバブルの仕組みになっています。脅威があっても、そのことを一切知らないと知る機会がありません。自分の個人情報保護をしないと不要な広告が煩わしいだけでなく、もっと深刻な被害に巻き込まれるリスクがあるのです。
ご興味があれば関連する「世界の脅威 中共の影響力作戦」もご覧ください。
この記事の監修コンサルタント
株式会社STEKWIRED 取締役 プライバシーコンサルタント アドバイザリー
諸井 賀正
個人情報保護法公布の2002年からOECDプライバシー原則を基準とした「顧客目線で信頼を得るためのプライバシー対応」をクライアントができるようコンサルティングや教育を提供しています。TRUSTe認証を利用したサービスのプライバシー品質の向上と時代にあわせたプライバシーステートメント改定やプライバシー担当者や幹部社員に時代の流れとプライバシー課題が認識できるCPA資格つき研修を支援しています。
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- 【資格】
- ・JPAC認定プライバシーコンサルタント
- ・認定TRUSTeコンサルタント・審査員
- ・認定CPP/CPA講師
- ・個人情報保護士
- 【受賞】
- ・プライバシーアワードTRUSTe普及賞